ジャズ初めの一歩
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ジャズ・スタンダードナンバー(16) −オール・オブ・ミー(All of Me)−
今回のテーマは、前回に引き続きジャズ・スタンダードナンバー。

そのNo.16として「オール・オブ・ミー(All of Me)」をご紹介します。

同じシリーズの7回目で「オール・オブ・ユー(All of You)」というスタンダードナンバーを取り上げましたが、こちらの曲が1954年に作られたのに対し、「オール・オブ・ミー」の方は1931年にすでに誕生していました。

作曲はジェラルド・マークス(Gerald Marks)、作詞はセイモア・シモンズ(Seymour Simons)。

特にエピソードは語られていないようですが、コール・ポーターが「オール・オブ・ユー」を作るに際し、マークス&シモンズの作品をを意識したことは間違いないものと思われます。

さて、この「オール・オブ・ミー」という曲は、発表された翌年の'32年にルイ・アームストロングが歌ってビルボード・チャートのトップを飾るという大ヒットとなったほか、『ケアレス・レディー(Careless Lady)』という映画で使われたことなどもあって瞬くうちに広まりました。

その後もビリー・ホリデイをはじめ、ダイナ・ワシントン、エラ・フィッツジェラルド、サラ・ボーン、フランク・シナトラといった人気歌手によって歌い継がれ、その地位を不動のものとしていったのです。

まさにスタンダード・ナンバー界のサラブレッドとでもいうべき曲ですね。

ただ、このようにヴォーカリストが好んで取り上げた反面、"instrumental"な演奏の数はそれほど多くはないようです。

その理由は、「オール・オブ・ミー」という曲の魅力は、シモンズの手になる詞がマークスの曲と相まって、より一層の光彩を放つからかもしれません。

「オール・オブ・ミー」は次のように歌われます。

All of me why not take all of me
Can't you see I'm no good without you
Take my lips I want to lose them
Take my arms I'll never use them

Your goodbye left me with eyes that cry
How can go on dear without you
You took the part that once was my heart
So why not take all of me

どうして私のすべてを奪ってくれないの?
わからないの?私はあなたがいなくてはだめなの
私の唇を奪って、なくしてしまいたいの
私の腕をもっていって、もう使わないから

あなたが行ってしまったら、私の目は涙でいっぱい
あなたなしでどうやって生きていけばいいの
あなたは私から心の一部をもぎ取ってしまった
どうして私のすべてを奪っくれないの?

では、いつものように「オール・オブ・ミー」の名演を3つお聴きいただきましょう。

まずは、ビリー・ホリデイ(Billie Holiday, vo)とレスター・ヤング(Lester Young, ts)の共演による「オール・オブ・ミー」。

二人ともこの曲がお気に入りだったらしく、それぞれほかにもいろいろな録音を残しています。

その中から、レスターがテディ・ウィルソン(Teddy Wilson, p)と吹き込んだプレイを次にお楽しみください。

最後は、ダイナ・ワシントン(Dinah Washington, vo)が歌うブルース・フィーリングに満ちた「オール・オブ・ミー」。

1958年に行われた第5回ニューポートJAZZフェスティバルにおける有名なパフォーマンスです。


※上の各演奏はそれぞれ次のCDに収録されています。

ビリー・ホリデイ&レスター・ヤング 『1937-1941』ビリー・ホリデイ&レスター・ヤング 『1937-1941』

レスター・ヤング&テディ・ウィルソン 『プレス&テディ』レスター・ヤング&テディ・ウィルソン 『プレス&テディ』

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ジャズ・スタンダードナンバー(15) −イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー(It Could Happen to You)−
ジャズのスタンダード・ナンバー(に限ったことではありませんが)には、原題で呼ばれている曲と、主に邦題が流通しているものとの二つがあります。

「上手い」訳が当てられた場合はもちろん後者に属することになりますが、「言っていることはよくわかるけど、適当な言葉がみつからない…」というタイトルが冠せられ、原題のまま定着している名曲も少なくありません。

今回ご紹介する「イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー(It Could Happen to You)」もそんな作品の一つではないでしょうか。

このタイトルは「それはあなたにも起こりうること」という意味ですが、曲のタイトルとして適当な日本語はなかなかないようです。

詞の方もタイトルに準じた内容で、

Hide your heart from sight,
Lock your dream at night
It could happen to you.
Don't count stars or you might stumble,
Someone drops a sigh and down your tumble.

と歌われます。

原詞をそのまま訳せば(倒置を除いて)

こころの中は隠しておいて
夜見た夢にも鍵をかけて
星を数えてなんかいるとつまずいてしまうわ
誰かのため息で転んでしまうことだってあるから
そう、それはあなたにも起こりうることなの

といった意味になるでしょうが、結局のところ「ちょっとしたきっかけで誰でも恋に落ちるもの」ということがテーマとなっています。

"It Could Happen to You"は、1944年、作詞J.バーク・作曲J.V.ヒューゼンというヒットメーカー・コンビにより、ミュージカル映画『そして天使は歌う(And The Angels Sing)』の挿入歌として作られました。

J.スタッフォードが歌って人気を博し、その後もジャズ・ミュージシャンが好んで取り上げたことでスタンダードナンバーとしての位置を確立していったのです。

さて、今回は、数多くの録音の中から、ある時期に焦点を当てて3つの演奏を聴き比べてみたいと思います。

まずはじめは、マイルス・デイビス(Miles Davis, tp)のオリジナル・クインテッドによる有名なマラソン・セッション中の一枚、『リラクシン(Relaxin')』に収録された"It Could Happen to You"。

M.デイビス『リラクシン』M.デイビス 『リラクシン』

続いて、上のクインテッドにも参加しているレッド・ガーランド(Red Garland, p)のリーダー作『レッド・ガーランド・リビジテッド(Red Garland Revisited!)』におけるプレイ

R.ガーランド『レッド・ガーランド・リビジテッド』R.ガーランド 『レッド・ガーランド・リビジテッド』

最後は、前回も名前を挙げたソニー・クラーク(Sonny Clark, p)の『ダイヤル・S・フォー・ソニー(Dial "S" for Sonny)』の中の一曲です。

S.クラーク『ダイヤル・S・フォー・ソニー』S.クラーク 『ダイヤル・S・フォー・ソニー』

これらのアルバムが録音されたのは、それぞれ1956年5月、'57年5月および同年7月。

このように同じ時期の、しかも同じアーティストが入っているような演奏でもこれだけ表情が違っているという事実は、"It Could Happen to You"という曲がもつ魅力の奥深さを物語っているような気がします。
ジャズ・スタンダードナンバー(14) −イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン(It's Only A Paper Moon)−
ジャズの曲のタイトルを眺めていると、よく目にする単語があることに気付きます。

愛(love)・夜(night)・星(star)などはその代表的なものですが、これらよりさらに多く使われているように思われるのが、「月(moon)」という言葉です。

思いつくままに挙げてみても、"Moonlight Serenade", "How High The Moon", "Old Devil Moon","Fly Me to The Moon"など、枚挙に暇がありません。

そのような、「月」を冠したジャズ・スタンダードナンバーの一つが、今回ご紹介する「イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン(It's Only A Paper Moon)」です。

「ただの紙の月」といういささか奇妙なタイトルをもつこの曲は、1932年、『ザ・グレート・マグー』という芝居のために、H.アーレン(作曲)およびB.ローズ/E.Y.ハーバーグ(作詞)によって作られました。

もっとも、初めからこのようなタイトルだったわけではなく、原題は"If You Believe in Me"というものでした。

この芝居自体はまったくの不入りだったようですが、「イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン」の方はその後もいくつかの映画などに使われ、'45年にナット・キング・コールが歌って一躍有名になります。

さらに、ライアンとテイタムのオニール親娘が共演した'73年の映画『ペーパー・ムーン』の主題歌にもなったことで、「君のケツのことは忘れない」という名台詞とともに(笑)、そのメロディーは多くの人の記憶に刻みつけられていることと思います(私だけ?)。

さて、この曲の歌詞を見てみると、「ペーパー・ムーン」は次のように歌われます。

Say, it's only a paper moon
Sailing over a cardboard sea
But it wouldn't be make-believe if you believed in me

ねえ君、これはただの紙の月さ
ボール紙の海の上にかかっているね
でも、僕を信じてくれれば絵空事ではなくなるんだ

つまり、自分のことを信じてついてきて欲しいという胸の内を表現しているわけですね。

それでは曲を聴いてみましょう。

初めは、モダン・ジャズの礎を築いたレスター・ヤング(Lester Young, ts)が奏する"It's Only A Paper Moon"。

スウィンギーなリズムと、彼の特徴である歌うようなフレージングが見事にマッチした名演です。

続いては、マイルス・デイビス(Miles Davis, tp)初期の作品『ディグ(Dig)』に収められた一曲

このアルバムは、『クールの誕生(Birth of The Cool)』によってクール・ジャズを確立したマイルスが、そこに立ち止まることなく、すぐに次なる世界「ハード・バップ」に向かって足を踏み出した作品だけあって、コントロールされた音の中にも熱い息吹を聴き取ることができます。

最後は、マイルスとともにハード・バップを築き上げ、その君主となったアート・ブレイキー(Art Blakey, ds)による「イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン」。

ブレイキー率いるジャズの使徒たち(Jazz Messengers)が、新鋭ウェイン・ショーター(Wayne Shorter, ts)を迎えて吹き込んだこの演奏には、彼らの代名詞であるファンキーなフィーリングに、それまでにない斬新なフレージングがちりばめられていることがわかります。

それにしても、月を愛でる習慣があるようにはとても思えないアメリカ人に、たくさんの「月の曲」があるのはどうしてなのでしょうか?

ちょっと不思議な感じがします。

※上の各演奏は、それぞれ次のCDに収録されています。

L.ヤング『ザ・レスター・ヤング・ストーリー』L.ヤング 『ザ・レスター・ヤング・ストーリー(The Lester Young Story)』

M.デイビス『ディグ』M.デイビス 『ディグ(Dig)』

A.ブレイキー『ザ・ビッグ・ビート』A.ブレイキー 『ザ・ビッグ・ビート(The Big Beat)』