ジャズ初めの一歩
「ジャズを聴いてみたいけれど、何から始めればいいか分からない」といった人たちに、ジャズの特徴や代表的アーティスト、名曲・名盤などの情報を提供するブログです。ご一緒にジャズを楽しみませんか?
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ジャズ・スタンダードナンバー(13) −時の過ぎゆくままに(As Time Goes By)−
1940年、フランス領モロッコ。

ここは、第二次世界大戦の戦禍を逃れるためアメリカへ渡ろうとする人々の足場となる場所でした。

その土地でナイトクラブを経営するリック(ハンフリー・ボガート)の元へ、かつてパリで恋仲だったイルザ(イングリッド・バーグマン)が現れます。

しかし、一人ではなく、ナチスに対するレジスタンス運動のリーダーである夫と共に…

ご存知、映画『カサブランカ』の一節です。

この映画の中で、幸福だった昔日の想い出の曲、そして自分のもとを去ったイルザを想い出させる辛い曲として、リックがクラブの専属ピアニスト、ドーリーに決して弾いてはならないと禁じた曲、それが今回ご紹介する「時の過ぎゆくままに(As Time Goes By)」です。

作詞・作曲ともハーマン・ハプフェルト(Herman Hupfeld)の手になり、作られたのは1934年。

『カサブランカ』で有名になるよりずっと前の作品ということになりますが、映画のストーリーとは時間的にマッチしているといえるかもしれません。

この曲の詞は、

You must remember this, a kiss is still a kiss.
A sigh is just a sigh;
The fundamental things apply,
As time goes by.

忘れないでね、キスはやっぱりキス
溜息は溜息でしかないけれど
こういう大切なことは変わらない
どんなに時が経っても 

And when two lovers woo, they still say I love you,
On that you can rely;
No matter what the future brings
As time goes by

恋する二人が、愛を囁き合えば
それを糧にして生きてゆける
未来につらいことが待ち受けていても
どんな時でも

・・・

というもので、「時の過ぎゆくままに」という邦題は確かに語感はいいものの、意味の上ではあまり適切でないようです。

では、早速"As Time Goes By"を聴いていただきましょう。

今日は、ビリー・ホリデイ(Billie Holiday)の歌声、それから、デューク・ジョーダン(Duke Jordan)、アンドレ・プレヴィン(Andre Previn)という二人のピアニストの演奏を続けてどうぞ。

さて、映画『カサブランカ』は、そのストーリーについては賛否両論が分かれる作品ですが、名台詞が多いということに対しては異論はないようです。

イルザがドーリーに"As Time Goes By"をリクエストする「サム、あの曲を弾いて」に始まり、映画のキャッチフレーズにもなったリックの台詞「君の瞳に乾杯」など、映画史に残る名台詞が随所にちりばめられています。

中でも、リックと女友達との短いやり取り、

「夕べはどこにいたの?」
「そんな昔のことは覚えてないね」
「今夜会えるかしら?」
「そんな先のことは分らない」

は秀逸の極み。

ただ、こんな台詞を実生活で言ったら…

思い切り引かれてしまうのが落ちでしょうね。

そういえば、少し前に電車の中でこんなコピー(確かコーヒーの広告だったと思います)をみて感心したことを思い出しました。

「昨日とまったく同じ話を聞かされる」
「昨日とまったく違うことを指示される」

少し話題がそれてしまったようなので、今回はこれにて。

※上の各演奏はそれぞれ次のCDに収録されています。

B.ホリデイ『コモドアー・マスター・テイクス』B.ホリデイ 『コモドアー・マスター・テイクス(The Commodore Master Takes)』

D.ジョーダン『タイム・オン・マイ・ハンズ』D.ジョーダン 『タイム・オン・マイ・ハンズ(Time on My Hands)』

A.プレヴィン『バラード』A.プレヴィン 『バラード(Ballads/Solo Jazz Standards)』
ジャズ・スタンダードナンバー(12) −いつか王子様が(Someday My Prince Will Come)−
「いつか王子様が」という、簡単ながらなかなか洒落た邦題をもつスタンダードナンバー"Someday My Prince Will Come"は、1937年にディズニーが初めて公開した長編アニメ映画『白雪姫』の主題歌として作られました。

作詞がラリー・モーリー(Larry Morey)、作曲はフランク・チャーチル(Frank Churchill)。

ヒロインの白雪姫が、王子様が現れることを夢見て7人の小人たちに向かって次のように歌う可憐なワルツです。

Someday my prince will come, someday I'll find my love,
And how thrilling that moment will be
When the prince of my dreams comes to me.

いつか王子様がやってくる、いつか愛する人に会えるはず
その瞬間ってどんなにすばらしいかしら
夢の王子様が目の前に現れたら

He'll whisper "I love you" and steal a kiss or two.
Though he's far away, I'll find my love someday,
Someday when my dreams come true.

「愛してるよ」ってささやいて、私にそっとキスするでしょう
その人はまだ遠くにいるけれど、いつかきっと見つかるはず
そのとき私の夢がほんとうになるの

この曲がジャズ・アーティストに好んで取り上げられるようになったきっかけは、おそらく1955年のアルバム『Jhon Williams Trio』だと思います。

その後、デイブ・ブルーベック(Dave Brubeck, p)やビル・エヴァンス(Bill Evans, p)、マイルス・デイビス(Miles Davis, tp)といったアーティストが、それぞれ独自の味付けで「いつか王子様」を料理し、ジャズのスタンダードナンバーとして定着したのです。

では、これら3者の演奏を聴き比べてみましょう。

まずは、デイブ・ブルーベックが盟友ポール・デスモンド(Paul Desmond, as)をフィーチャーしたカルテットによる演奏から。

ディズニー音楽のジャズ・アレンジメントというテーマで制作された
『デイブ・ディグズ・ディズニー(Dave Digs Disney)』に収められた「いつか王子様が」は、派手さはないものの、淡々とした情緒と心地よいスウィング感が魅力です。

続いて、ビル・エヴァンスが黄金のトリオで初めて吹き込んだ記念碑『ポートレイト・イン・ジャズ(Portrait In Jazz)』の中の一曲

ブルーベックとは対照的に、音を短く刻んで弾むように奏でることにより、曲に「きらめき感」をうまく与えています。

なお、エヴァンスはこの曲がお気に入りだったらしく、この後も繰り返し20回近く録音しています。

そのため、エヴァンスのスタイルの変遷を知る上で重要な情報を提供してくれる曲ともいえるのです。

さて、最後は帝王マイルスが曲と同名のタイトルをもつ'61年のアルバムに録音した演奏で締めくくりましょう。

J.コルトレーンとH.モブレーという2テナーを従えてのこの演奏は、アコースティック・ジャズにおける集大成ともいえる完成度をもったプレイとして、マイルスの数多くの名演の中でも出色のものといえます。

特に聴いていただきたいのは、マイルスの間(ま)のとり方。

「どこで吹くか、どこで吹かないか。その"どこで"が俺だけの秘密だ。」と語ったマイルスの奥義がここに遺憾なく披露されているのではないかと思います

また、前にもご紹介しましたが、ゲストとして吹いたコルトレーンがメイン・メンバーのモブレーを圧倒してしまい、モブレーに「愛すべきB級テナー」というレッテルが貼られてしまったというエピソードでも有名ですね。

ただ、コルトレーンのここでのプレイと比べられたら、ほとんどのテナー奏者が同じような評価を受けてしまうだろうということだけは、モブレーのために言っておくべきでしょう。

※上の各曲はそれぞれ次のCDに収録されています。

D.ブルーベック『デイブ・ディグズ・ディズニー』D.ブルーベック 『デイブ・ディグズ・ディズニー(Dave Digs Disney)』

B.エヴァンス『ポートレイト・イン・ジャズ』B.エヴァンス 『ポートレイト・イン・ジャズ(Portrait In Jazz)』

M.デイビス『いつか王子様が』M.デイビス 『いつか王子様が(Someday My Prince Will Come)』
ジャズ・スタンダードナンバー(11) −イパネマの娘(The Girl from Ipanema)−
「今年の夏は涼しいのかな?」と思っていたら、梅雨明けと同時に真夏の暑さがやってきたようです。

こんな季節にピッタリなのが、「ボサノヴァ」。

そんな訳で、前回に続いてボサノヴァを取り上げることにしました。
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1962年、ブラジルはリオデジャネイロ、イパネマ海岸の近くのバー「ヴェローゾ」。

ここには、今や人気絶頂のボサノヴァのアーティストたちが足繁く通っており、その中には、ほかならぬボサノヴァの生みの親、A.C.ジョビンやV.deモライスの顔もありました。

そんな彼らの視線を一身に集めていたのがエロイーザ・エネイダという当時15歳の少女。

彼女はヴェローゾの近くに住んでおり、母親の使いの買い物のために時折ヴェローザに姿をみせたのです。

エロイーザにすっかり魅了されてしまったジョビンとモライスは、彼女の美しさにインスピレーションを得て、一つのボサノヴァの名曲を生み出しました。

そう、それが「イパネマの娘(The Girl from Ipanema)」なのです。

ご紹介したように、作詞がV.deモライス、作曲はA.C.ジョビン。

ノーマン・ギンベルによる英語の詞は次のように歌いだします。

Tall and tan and young and lovely
The girl from Ipanema goes walking,
And when she passes, each one she passes goes, "Ahhh."

すらりとした若くて可愛い
イパネマの娘が歩いてゆく
彼女が通り過ぎるとき、誰もが思わずため息をもらす

When she walks, she's like a samba
That swings so cool and sways so gentle,
That when she passes, each one she passes goes, "Ahhh."

彼女の歩みはサンバのよう
クールにスウィング優しくゆれる
彼女が通り過ぎるとき、誰もが思わずため息をもらす

「イパネマの娘」が世界に広まったきっかけは、前回もご紹介したスタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトの共作アルバム『ゲッツ/ジルベルト』ですが、この件については少し曰くがあるので、それをご紹介しておきましょう。

『ゲッツ/ジルベルト』のレコーディングには、当時ジョアンの妻であったアストラッド(Astrud)も同行していました。

実は、アストラッドには歌手として自分を売り込もうという密かな目論見があり、録音の際に、「イパネマの娘」を歌わせて欲しいと強行に主張したのです。

ジョアンがいくらなだめても効果はなく、それを見兼ねたジョビンが、アストラッドの歌だけを別トラックに録音し、ミックスダウンの際に削ればいいという策略を提案してその場を収めました。

ところが、実際にレコードがリリースされてみると、「イパネマの娘」は1コーラス目のみがジョアンのポルトガル語の歌で、残りの第2, 3コーラスはアストラッドが歌った英語のものが収められていたのです。

これは、プロデューサーのクリード・テイラーが、ビジネス上の成功を収めるには英語の歌の方がよいと判断したため。

さらに、テイラーの計算は見事に当たり、この曲はすぐにシングルカットされることとなりましたが、その際、シングル盤として曲が長すぎるという理由でジョアンの歌唱部分はすっかり取り除かれ、アストラッドの作品として発売されたのです。

このレコードがアメリカはもとより、世界中で空前のヒットとなったため、アストラッドは「ボサノヴァの女王」として大きな名声を手に入れることができました。

この成功は、おそらくアストラッド本人が想像していた以上のものだったのではないでしょうか。

ちなみに、この後まもなく、ジョアンとアストラッドは破局を迎えることになります。

また、この曲の誕生の場となった「ヴェローゾ」は、後にイパネマの娘の原題である"A Garota de Ipanema"と改称され、観光の名所の一つに数えられるようになっています。

「イパネマの娘」は、ビートルズの「イエスタデイ」に次ぐカヴァーを持つといわれていますが、その中からジャズ・テイストの演奏が収められたアルバムを3枚選んでみました。

暑い昼下がりにでも、先の『ゲッツ/ジルベルト』と聴き比べるのも一興ですね。

O.ピーターソン『プリーズ・リクエスト』O.ピーターソン 『プリーズ・リクエスト(We Get Requests)』

A.C.ジョビン『ジョビン・アンド・フレンズ』A.C.ジョビン 『ジョビン・アンド・フレンズ(Antonio Carlos Jobim and Friends)』

C.バード『プレイズ・ジョビン』C.バード 『プレイズ・ジョビン(Plays Jobim)』

※"The Boy from Ipanema"という曲もありますが、これは本質的には「イパネマの娘と」同じ。
女性ヴォーカリストが歌う際、感情移入しやすいように主語を"she"から"he"にかえたものです。