ジャズ初めの一歩
「ジャズを聴いてみたいけれど、何から始めればいいか分からない」といった人たちに、ジャズの特徴や代表的アーティスト、名曲・名盤などの情報を提供するブログです。ご一緒にジャズを楽しみませんか?
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ジャズ・スタンダードナンバー(15) −イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー(It Could Happen to You)−
ジャズのスタンダード・ナンバー(に限ったことではありませんが)には、原題で呼ばれている曲と、主に邦題が流通しているものとの二つがあります。

「上手い」訳が当てられた場合はもちろん後者に属することになりますが、「言っていることはよくわかるけど、適当な言葉がみつからない…」というタイトルが冠せられ、原題のまま定着している名曲も少なくありません。

今回ご紹介する「イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー(It Could Happen to You)」もそんな作品の一つではないでしょうか。

このタイトルは「それはあなたにも起こりうること」という意味ですが、曲のタイトルとして適当な日本語はなかなかないようです。

詞の方もタイトルに準じた内容で、

Hide your heart from sight,
Lock your dream at night
It could happen to you.
Don't count stars or you might stumble,
Someone drops a sigh and down your tumble.

と歌われます。

原詞をそのまま訳せば(倒置を除いて)

こころの中は隠しておいて
夜見た夢にも鍵をかけて
星を数えてなんかいるとつまずいてしまうわ
誰かのため息で転んでしまうことだってあるから
そう、それはあなたにも起こりうることなの

といった意味になるでしょうが、結局のところ「ちょっとしたきっかけで誰でも恋に落ちるもの」ということがテーマとなっています。

"It Could Happen to You"は、1944年、作詞J.バーク・作曲J.V.ヒューゼンというヒットメーカー・コンビにより、ミュージカル映画『そして天使は歌う(And The Angels Sing)』の挿入歌として作られました。

J.スタッフォードが歌って人気を博し、その後もジャズ・ミュージシャンが好んで取り上げたことでスタンダードナンバーとしての位置を確立していったのです。

さて、今回は、数多くの録音の中から、ある時期に焦点を当てて3つの演奏を聴き比べてみたいと思います。

まずはじめは、マイルス・デイビス(Miles Davis, tp)のオリジナル・クインテッドによる有名なマラソン・セッション中の一枚、『リラクシン(Relaxin')』に収録された"It Could Happen to You"。

M.デイビス『リラクシン』M.デイビス 『リラクシン』

続いて、上のクインテッドにも参加しているレッド・ガーランド(Red Garland, p)のリーダー作『レッド・ガーランド・リビジテッド(Red Garland Revisited!)』におけるプレイ

R.ガーランド『レッド・ガーランド・リビジテッド』R.ガーランド 『レッド・ガーランド・リビジテッド』

最後は、前回も名前を挙げたソニー・クラーク(Sonny Clark, p)の『ダイヤル・S・フォー・ソニー(Dial "S" for Sonny)』の中の一曲です。

S.クラーク『ダイヤル・S・フォー・ソニー』S.クラーク 『ダイヤル・S・フォー・ソニー』

これらのアルバムが録音されたのは、それぞれ1956年5月、'57年5月および同年7月。

このように同じ時期の、しかも同じアーティストが入っているような演奏でもこれだけ表情が違っているという事実は、"It Could Happen to You"という曲がもつ魅力の奥深さを物語っているような気がします。
魅惑のジャケット(7) −街−
10月も半ばを過ぎ、山が眠りにつく前のひと時、その一張羅を着て装う季節となりました。

都会でももう少しすると枯葉が踊るようになり、山々のような艶やかさはないものの、これもまた一種独特の風情が感られるように思います。

このような季節にちなみ、今回は「街」をモチーフにしたジャケットをもつジャズのアルバムをご紹介しましょう。

一枚目は、マイルス・デイビス(Miles Davis, tp)の『ウォーキン(Walikin')』。

マイルス・デイビス『ウォーキン』マイルス・デイビス 『ウォーキン(Walikin')』

1950年代の初頭、パリを訪れたマイルスは、フランスの代表的シャンソン歌手ジュリエット・グレコと出会い恋に落ちますが、それが元で麻薬に溺れるようになり、音楽的にも停滞した数年間を過ごします。

しかし、'53年、父親の農園にあったゲスト・ハウスに1週間篭って麻薬を克服した彼は、その後数々のセッションを重ねることにより徐々にスランプからも脱却していきました

'54年に録音されたこの『ウォーキン(Walikin')』は、そんなマイルスの転回点となった一枚であり、ジャズの歴史においてもビ・バップからハード・バップへと時代が変わった記念碑的作品として知られています。

オリジナル・クインテットを結成し、有名なプレスティッジでのマラソン・セッションをはじめとする、ほかに例を見ないほどの多様多彩な作品により、単にジャズの世界にとどまらず、現代アートシーンに大きな影響を及ぼす存在へと飛翔する前夜のマイルスの姿を知るため、ぜひ聴いておきたいアルバムです。

二枚目は、レッド・ガーランド(Red Garland, p)の『グルーヴィ(Groovy)』。

レッド・ガーランド『グルーヴィ』レッド・ガーランド 『グルーヴィ(Groovy)』

P.チェンバース(b)、A.テイラー(ds)と組んだトリオとして、先にご紹介した『ア・ガーランド・オブ・レッド』に続いてリリースされたのがこの『グルーヴィ(Groovy)』で、数あるガーランド・トリオの中でも最も人気のある作品といってよいでしょう。

ガーランドのトレード・マークともいえる「ブロックコード+シングルトーン」による演奏は、シンプルでありながらジャズの魅力が凝縮されたものであり、このアルバムによってジャズに開眼させられたという人も多いはずです。

その「わかりやすさ」のため、もったいぶったマニアやジャーナリストからは「低俗」とのレッテルを貼られることも少なくないガーランドですが、そんな世評は一切無視してかまいません。

レーベル・タイトル・アーティスト名を「建物の壁への落書き」としてあしらったジャケット・デザインは、音楽的内容と相まってまさに"Groovy"そのもの。

右側のレンガに縦書きされた"Go Red Go"の文字もなかなかいい味を出しています。

さて、本日の最後、三枚目のアルバムは、ソニー・クラーク(Sonny Clark, p)の『クール・ストラッティン(Cool Struttin')』。

ソニー・クラーク『クール・ストラッティン』ソニー・クラーク 『クール・ストラッティン(Cool Struttin')』

「アルバムジャケット」「モダン・ジャズ」という言葉を聞いてこの作品が反射的に頭に思い浮ぶという人が少なくないほど有名な作品です。

タイトルに使われている"Strut"という単語は「気取って歩く・気取った歩き方」といった意味なので、"Cool Struttin'"とは「イカした気取り歩き」ということになります。

アスファルトの上を颯爽と歩くスリットスカートの女性…しかもその「脚」の部分だけを写したところにこのカヴァーデザインの妙があるのではないでしょうか?

さて、内容(音楽)についても少しご紹介しておくと、本作は、'57年に西海岸からニューヨークに移り、A.ライオンに見出されてブルーノートと契約したクラークが、『ダイヤル・S・フォー・ソニー』『ソニー・クラーク・トリオ』に続いて録音した3作目にあたります。

当時リーダーのクラークは26歳、メンバーの中で最も若いP.チェンバースは22歳、最年長のP.J.ジョーンズ(ds)でも32歳という、非常に若い面子による演奏ですが、溌剌とした輝きをもちながら非常に高いレベルの完成度が示されています。

もっとも、クラーク自身は4歳でピアノを始め、6歳の時にラジオ出演をし、31歳でこの世を去ってしまった早熟型のアーティストなので、彼にとっては円熟期のプレイといえるのかもしれません。
今月の1枚(2) −キャノンボール・アダレイ 『サムシン・エルス(Somethin' Else)』−
今回は、先月からはじめた新シリーズ「今月の1枚」の第2回。

ご紹介するのは、ジュリアン・"キャノンボール"・アダレイ(Julian "Cannonball" Adderley, as)の『サムシン・エルス(Somethin' Else)』です。

このアルバムは、「ジャズの名盤」が語られるときには必ず名前のでる作品であり、ブルーノート・レーベルの数ある作品の中でも傑出した一枚と言ってよいでしょう。

パーソネルはキャノンボールのほか、マイルス・デイビス(Miles Davis, tp)、ハンク・ジョーンズ(Hank Jones, p)、サム・ジョーンズ(Sam Jones, b)、アート・ブレイキー(Art Blakey, ds)という錚々たるクインテット。

マイルスがリーダーとしてではない形でクレジットされている珍しい作品なのですが、これはあくまでも契約上の関係からのことで、実質的にはマイルスが音頭をとり、弟分のキャノンボールに華をもたせるために吹き込んだ作品とされています。

実際、クレジットを目にすることなくアルバムを聴いてみれば、誰でもマイルスのリーダー作だと思うに違いありません。

マイルスが抑制されたトランペットでしっかりとした下絵を描き、その上にキャノンボールが華やかなアルトサックスで彩色する…収録された各曲からはそんな印象を受けます。

そのバランスは絶妙で、これがもし早吹きのトランペットだったとしたら、ガシャガシャとうるさい駄作に終わってしまったことでしょう。

それから、圧倒的な存在感を示すホーンの二人に隠れてしまいがちですが、リズムセクションも忘れてはなりません。

ハンクとサムのコンビには、例えばR.ガーランドとP.チェンバースのような「都会のダンス」といったお洒落な魅力はありませんが、「田舎の踊り」がもつ素朴な趣にあふれており、骨太で力強い演奏により、前面の二人を強力にサポートしています。

また、ブレイキーは「ハード・ヒッター」の代名詞的ドラマーですが、このアルバムでは他のメンバーとの兼ね合いを考慮してのことでしょう、ブラシを効果的に使ったプレイを披露しており、彼の別の一面を知ることができます。

収録されているのは次の6曲。

01. 枯葉(Autumn Leaves)[Joseph Kosma, Johnny Mercer, Jacques Prevert]
02. ラブ・フォー・セール(Love For Sale)[Cole Porter]
03. サムシン・エルス(Somthin' Else)[Miles Davis]
04. ワン・フォー・ダディ・オー(One For Daddy-O)[Nat Adderley, Sam Jones]
05. ダンシング・イン・ザ・ダーク(Dancing in The Dark)[Howard Dietz, Arthur Schwartz]
06. アリソンズ・アンクル(Alison's Uncle)[Hank Jones]

このセレクションはキャノンボールが行ったとされていますが、非常にバランスのとれた名選です。

トップにおかれた「枯葉」はあまりにも有名で、実際、ここでのマイルスのミュートプレイがアルバム全体の基本的な色調を規定しているように思います。

1958年3月9日という録音日にかかわらず「秋」の雰囲気に満ちているのはそのためではないでしょうか。

もちろん、他の曲もそれぞれ固有の「聴き所」をもっており、収録時間はあっという間に過ぎ去ります。

なお、5曲目の「ダンシング・イン・ザ・ダーク」は、アルバム中唯一マイルスが参加せず、カルテットで奏されていますが、やはりこれだけは他とは違って非常にリラックスした演奏となっており、このことからもマイルスの影響力がいかに大きいかがみてとれます。

6曲目の「アリソンズ・アンクル」はオリジナル盤には含まれておらず、後にボーナストラックとして追加されたもの。

この手の措置はアルバム全体の構成を崩すことが多いのですが、ここでは全体を通しで聴いてみてもまったく違和感を感じないほど溶け込んでいるように思います。

それにしても、こんなすばらしい音楽が千円札一枚で聴けるなんて、いい時代になったものですね。

キャノンボール・アダレイ『サムシン・エルス』キャノンボール・アダレイ 『サムシン・エルス(Somethin' Else)』