ジャズ初めの一歩
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ジャズ・スタンダードナンバー(14) −イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン(It's Only A Paper Moon)−
ジャズの曲のタイトルを眺めていると、よく目にする単語があることに気付きます。

愛(love)・夜(night)・星(star)などはその代表的なものですが、これらよりさらに多く使われているように思われるのが、「月(moon)」という言葉です。

思いつくままに挙げてみても、"Moonlight Serenade", "How High The Moon", "Old Devil Moon","Fly Me to The Moon"など、枚挙に暇がありません。

そのような、「月」を冠したジャズ・スタンダードナンバーの一つが、今回ご紹介する「イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン(It's Only A Paper Moon)」です。

「ただの紙の月」といういささか奇妙なタイトルをもつこの曲は、1932年、『ザ・グレート・マグー』という芝居のために、H.アーレン(作曲)およびB.ローズ/E.Y.ハーバーグ(作詞)によって作られました。

もっとも、初めからこのようなタイトルだったわけではなく、原題は"If You Believe in Me"というものでした。

この芝居自体はまったくの不入りだったようですが、「イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン」の方はその後もいくつかの映画などに使われ、'45年にナット・キング・コールが歌って一躍有名になります。

さらに、ライアンとテイタムのオニール親娘が共演した'73年の映画『ペーパー・ムーン』の主題歌にもなったことで、「君のケツのことは忘れない」という名台詞とともに(笑)、そのメロディーは多くの人の記憶に刻みつけられていることと思います(私だけ?)。

さて、この曲の歌詞を見てみると、「ペーパー・ムーン」は次のように歌われます。

Say, it's only a paper moon
Sailing over a cardboard sea
But it wouldn't be make-believe if you believed in me

ねえ君、これはただの紙の月さ
ボール紙の海の上にかかっているね
でも、僕を信じてくれれば絵空事ではなくなるんだ

つまり、自分のことを信じてついてきて欲しいという胸の内を表現しているわけですね。

それでは曲を聴いてみましょう。

初めは、モダン・ジャズの礎を築いたレスター・ヤング(Lester Young, ts)が奏する"It's Only A Paper Moon"。

スウィンギーなリズムと、彼の特徴である歌うようなフレージングが見事にマッチした名演です。

続いては、マイルス・デイビス(Miles Davis, tp)初期の作品『ディグ(Dig)』に収められた一曲

このアルバムは、『クールの誕生(Birth of The Cool)』によってクール・ジャズを確立したマイルスが、そこに立ち止まることなく、すぐに次なる世界「ハード・バップ」に向かって足を踏み出した作品だけあって、コントロールされた音の中にも熱い息吹を聴き取ることができます。

最後は、マイルスとともにハード・バップを築き上げ、その君主となったアート・ブレイキー(Art Blakey, ds)による「イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン」。

ブレイキー率いるジャズの使徒たち(Jazz Messengers)が、新鋭ウェイン・ショーター(Wayne Shorter, ts)を迎えて吹き込んだこの演奏には、彼らの代名詞であるファンキーなフィーリングに、それまでにない斬新なフレージングがちりばめられていることがわかります。

それにしても、月を愛でる習慣があるようにはとても思えないアメリカ人に、たくさんの「月の曲」があるのはどうしてなのでしょうか?

ちょっと不思議な感じがします。

※上の各演奏は、それぞれ次のCDに収録されています。

L.ヤング『ザ・レスター・ヤング・ストーリー』L.ヤング 『ザ・レスター・ヤング・ストーリー(The Lester Young Story)』

M.デイビス『ディグ』M.デイビス 『ディグ(Dig)』

A.ブレイキー『ザ・ビッグ・ビート』A.ブレイキー 『ザ・ビッグ・ビート(The Big Beat)』
企画・シリーズもの(1) −All ○○ Long−
前回は「魅惑のジャケット −風景−」として3枚のアルバムをご紹介しましたが、このテーマを取り上げようと思い立つきっかけとなった作品があります。

それは、レッド・ガーランド(Red Garland, p)の『オール・モーニン・ロング(All Mornin' Long)」。

ではなぜ、これを前回紹介しなかったのか?

実は、このアルバムはプレスティッジ・レーベルのいわゆる「企画もの」で、同レーベルが擁する人気アーティストを集めて制作された3枚のうちの1枚なのですが、すべてジャケットは風景をモチーフとしており、かつ非常に秀逸なデザインとなっています。

つまり、どれも捨てがたく、そうかといって3枚すべてを挙げるのでは範囲が狭くなりすぎる…といったジレンマが生じ、「それなら」ということで、このシリーズは「魅惑のジャケット」からははずし、別テーマを設けてまとめてご紹介することにしたのです。

名付けて、「企画・シリーズもの」。

その第1回目として、本日は上のプレスティッジの作品をご紹介したいと思います。

ジャズ3大レーベルの一つであるプレスティッジは、「オールスターもの」やS.ロリンズとJ.コルトレーンを競演させた『テナー・マッドネス(Tenor Madness)』といった「バトルもの」を数多く出していますが、『オール・モーニン・ロング』は『オール・デイ・ロング(All Day Long)』、『オール・ナイト・ロング(All Night Long)』とともにオールスター・シリーズの一つを構成しています。

録音は"ナイト"が'56年、他の2枚が翌'57年です。

共通した特徴として、参加アーティストの手になる作品、および非常に演奏時間の長い曲が収められていることが挙げられます。

これはすなわち、オールスターズ各メンバーの「聴かせどころ」が十分に用意されているということであり、プロデューサーのボブ・ワインストックの粋な計らいといったところでしょう。

では、それぞれのアルバムについて見てみましょう。

『オール・モーニン・ロング』は、「レッド・ガーランド・クインテト」とクレジットされることが多い作品で、内容的にもガーランドが中心的役割を担っています。

パーソネルはガーランドの他、J.コルトレーン(ts)、D.バード(tp)、G.ジョイナー(b)、A.テイラー(ds)。

ベースがトリオでおなじみのP.チェンバースでないのは、当時ガーランドはこのメンバーでクラブ演奏を行っていたためだそうです。

気心の知れたメンバーによるセッションだけあって全体的にリラックスした雰囲気に満ちている一方、それぞれのパートにおける自己主張がせめぎ合う緊張感、これらがうまくバランスされた作品ということができます。

R.ガーランド『オール・モーニン・ロング』R.ガーランド 『オール・モーニン・ロング(All Mornin' Long)』

続いて『オール・デイ・ロング』。

こちらはケニー・バレル(g)を中心としたセッションで、盟友T.フラナガン(p)に加え、D.バード(tp)、F.フォスター(ts)、D.ワトキンス(b)、A.テイラー(ds)によるプレイが収録されています。

このアルバムのキーワードは「デトロイト」。

フォスターとテイラーを除く4人はいずれもデトロイト出身であり、この土地の風土音ともいえる渋みのある演奏の魅力はここでも遺憾なく発揮されています。

K.バレル『オール・デイ・ロング』K.バレル 『オール・デイ・ロング(All Day Long)』

残りの1枚、『オール・ナイト・ロング』もバレル、もしくはバード&バレルの作品として紹介されることが多いアルバムです。

メンバーはバレル・バードの他にH.モブレー(ts)、J.リチャードソン(fl)、M.ウォルドロン(p)、D.ワトキンス(b)、A.テイラー(ds)というこちらもクインテット編成。

トランペット・テナーサックス・フルートという、それぞれ異なる個性をもった楽器の魅力を違和感なく聴くことができるのは、ワトキンスのベース・テイラーのドラムスというしっかりした土台、およびクールなトーンでホーンセクションをサポートするウォルドロンのピアノあってのものといえるのではないでしょうか。

D.バード&K.バレル『オール・ナイト・ロング』D.バード&K.バレル『オール・ナイト・ロング』
魅惑のジャケット(6) −風景−
今回は、「魅惑のジャケット」シリーズの第6弾として、風景をデザインの中心にすえたアルバムをご紹介したいと思います。

ジャズ・レーベルの創始者というものは、ジャズに対する強い思い入れがあり、それが嵩じてレーベルを作ってしまったという人がほとんどなわけで、当然、そこからリリースされる作品にも、それぞれのカラーが自ずから出てくるようです。

これはアルバムジャケットのデザインについても当てはまり、各レーベルのアルバムをつらつらと眺めていると、色の使い方やモチーフなどに、独自の傾向といったようなものが見えてきます。

今テーマとしている風景に関して言えば、ジャズのアルバムジャケット全体からすればかなりマイナーなモチーフですが、プレスティッジ(Prestige)とヴァーヴ(Verve)の両レーベルには、風景をジャケットにあしらった作品が比較的よくみられます。

では、早速アルバム紹介に移りましょう。

一枚目は、帝王マイルス・デイビス(Miles Davis, tp)の『ザ・ニュー・マイルス・デイビス・クインテット(The New Miles Davis Quintet)』。

M.デイビス『ザ・ニュー・マイルス・デイヴィス・クインテット』M.デイビス 『ザ・ニュー・マイルス・デイヴィス・クインテット』

1955年に録音されたこのアルバムは、マイルスがJ.コルトレーン、R.ガーランド、P.チェンバーズ、P.J.ジョー・ジョーンズという錚々たるメンバーを集めて結成した「オリジナル・クインテット」による最初の作品です。

グループ結成直後ということもあり、このアルバムの主役はあくまでもマイルスで、他のメンバーはでしゃばることなくマイルスのサポート役に徹しているといった演奏ですが、それだけ一層、マイルスのリリカルなミュート・プレイの魅力が引き立っており、アルバム全体を流れるリラックスした雰囲気と相まって、「小川のマイルス」と呼ばれて根強い人気を誇る名盤となっています。

また、翌'56年にジャズ史全体を通じても他に例がないほどのパフォーマンスを示すグループの基礎となった作品として、その歴史的価値も高いといえるでしょう。

二名目のアルバムは、モダン・ジャズ・カルテット(Modern Jazz Quarte:M.J.Q.)の傑作『コンコルド(Concorde)』。

M.J.Q.『コンコルド』M.J.Q. 『コンコルド』

クラシック音楽、特にバッハに傾倒していたピアニストのジョン・ルイス(Jhon Lewis)が、ヴィブラフォン奏者のミルト・ジャクソン(Milt Jackson)とともに結成したM.J.Q.は、メンバー全員がスーツにネクタイというジャズメンらしくないきちんとした身だしなみをし、その演奏についても、ジャズの必須要素とされていたアドリブを排除し、計算されたアンサンブルの妙を聴かせるという、クラシックの室内楽を思わせる特異なものでした。

そのため、本国アメリカでは当初「バロック・ジャズ」と揶揄されましたが、クラシック音楽に対する親しみが強いヨーロッパで熱烈な支持を受けると、アメリカ人もその魅力に気付き、次第に高く評価されるようになったのです。

『ジャンゴ(Django)』と並ぶM.J.Q.の代表作であるこの『コンコルド』は、ピアノとヴィブラフォンという、一見たがいに干渉してしまいそうな2つの楽器に、全体の調和を保ちながらそれぞれの持ち味を発揮させるという離れ業が堪能できる作品だと思います。

さて、本日最後のアルバムは、ジョニー・グリフィン(Jhonny Griffin)の『ウェイ・アウト!(Way Out!)』です。

J.グリフィン『ウェイ・アウト!』J.グリフィン 『ウェイ・アウト!』

本来ならアルト・サックスを吹くべき小柄な体格だったにもかかわらず、「ジャズはテナーだ!」との強い思いからテナー・プレイヤーとなったことから、「リトル・ジャイアント」と呼ばれるグリフィン。

彼の魅力は、何といってもその心意気(?)が現れているかのような豪快かつスピーディな演奏にあるといってよいでしょう。

しかし、このアルバムでは、ケニー・ドリューの流れるようなピアノをバックに、豪快さはそのまま、それでいて気品すら感じさせる端正な演奏を繰り広げるグリフィンを聴くことができます。

シカゴにゆかりの深いアーティストの作品を並べたことは、シカゴ出身のグリフィン、およびベースのウィルバー・ウェアにとって何か特別な思い入れがあったのかもしれません。

いずれにせよ、ジョニー・グリフィンの最高傑作として数えられる一枚であり、さらにハードバップ・ジャズを語るときにも欠くことのできないアルバムです。